素敵な愛情に包まれたオーガニックカフェ&ショップ

    ミクマリ

    ミクマリ&ホムスビ(栃木県・芳賀町)
    cafe mikumari &store homusubi

    ミクマリ
    ミクマリプレート(2,000円)。カリカリにキャラメリゼしたサクラポークがメインの野菜たっぷりプレート。タマネギはマリネしてから低温でグリル、ニンジンは低温と高温で二度素揚げしたりと、一つひとつの野菜に合わせて調理法を駆使している。また、飛鳥あかねカブ、津田カブ、ルタバガなどは素揚げやピクルスに。トマトのローストは1時間かけて焼いている。これにスープと飲み物がつく。メインのお肉がないサラダプレートもある(1,650円)

    料理と給仕を一人でする試練の日々

     新しい文化がすべて大都市から発信されるとは限らず、自然に守られた豊かな場所でしか生まれない文化もあります。そういう意味では栃木県益子町で新しい文化を創った「スターネット」の存在は衝撃的でした。自然との共生、人間が本来あるべき姿、そこに新しいクリエイティブが生まれました。

     その「スターネット」の料理長を3年間務めた高橋尚邦さんが、2006年に自宅でスタートしたオーガニックカフェが「ミクマリ」です。独立したのは家族との時間を大切にし、子育てに集中するためでした。妻の明美さんと男の子3人の5人家族。その家族の時間を最優先に考えたのです。
    「こんな田舎の中のお店でも、一人で料理を作り、給仕をすればなんとか生活していける」。尚邦さんは覚悟しました。
     しかし、交通量も少なく、まわりには田んぼしかない場所ゆえに、最初はほとんどお客さんは来ませんでした。それでも諦めることなく、料理に情熱を注ぎ込む尚邦さん。

    ミクマリ
    「ミクマリ」店内。それぞれのスぺースに固有のテーマがあり、何度来ても楽しめる。アーチストを読んでライブ企画なども開催。
    ミクマリ
    「ホムスビ」の店内。器やカトラリーのほか、オーガニック調味料、お茶なども並んでいる。

     たとえば数十種類もの野菜がのるプレート料理では、一つひとつの野菜のコンディションに合わせて「蒸す」「グリルする」「揚げる」「煮る」を使い分けます。たとえ同じ野菜でも数種類の調理法を使うというから、どれだけの手間をかけているのか。
     尚邦さんが野菜料理に目覚めたのは、益子の有名農家・山崎農園の山崎さんとの出会いでした。酒盛りした時に出てきた下仁田ネギ。泥付きのまま焼くと、蒸し焼き状態となり、泥がポロッと取れてくる。それを塩とオリーブオイルのみでいただく美味しさ。
    「その味を知ってしまったから、それまで脇役だった野菜を主役でやろうと決意したんです」。

     尚邦さんの料理は、こだわりが素材の隅々までいきわたり、繊細さもあれば、ときには大胆なアレンジもなされ、食べる側の既成概念を良い意味で裏切ってくれます。そんな料理の美味しさが口コミで話題となり、すぐに予約客でいっぱいに。予約がとれない店として有名になり、全国から人々が押し寄せました。
     しかし、そこからが高橋さんにとって試練の日々でした。人は大勢来るのに一人で料理を作り、テーブルへ運び、ハンドドリップでコーヒーも淹れていました。店が終われば仕込みもしなくてはならない。顔はやつれ、疲労がなかなかとれない日々が続きました。しかし、それでも家族がそばにいるということが、尚邦さんにとっての生きがいでした。

    ミクマリ
    ミクマリ
    ミクマリ

    作家やつくり手の想いが集まる場所

     やがて、そんな尚邦さんの試練も7年間で終わります。子どもたちが大きくなると、妻の明美さんが仕事を手伝えるようになったのです。明美さんが接客を担当することで、尚邦さんは料理に集中できるようになり、店は大きく変わり始めます。しかも、笑顔が素敵な明美さんがお店に出ることで、お店の雰囲気が急激に明るくなりました。さらに、明美さんが一部の焼菓子も作るように。
    「一人より二人の方が三倍できるというけれど、本当にそうだなって思いました」と、尚邦さん。料理の種類を増やし、仕込みの時間が増えても、以前よりも格段に時間に余裕ができました。

     まず、着手したのが併設ショップ「ホムスビ」のオープンです。店で使う調味料や、うつわ、カトラリー、縁のある作家の雑貨などを扱い、その一角にあるギャラリー部分では作家の個展や古道具展なども開催しています。
    「“ミクマリ”は漢字で“水分”って書くんですが、水の分岐点、恵みを分け与える場所という意味です。一方、“ホムスビ”は“火結”と書き、火は人の想いのこと、結は集結の意味。いろいろな作家さんやつくり手の想いが集まる場所になればいいなと思い、名づけました」と、明美さん。

     子どもたちが学校に行っている間、カフェとショップを忙しく往復。明美さんがセレクトしたものはことごとく売れていくのだとか。最初は地元の作家が多めでしたが、人と人の縁が広がり、今では全国の作家ものを扱っています。そして、田園風景の中のショップでの個展に、全国から人が集まってくる場所になっています。

    ミクマリ
    船舶室をイメージしたインナーテラス。床は信楽焼の陶板を敷いている。
    ミクマリ
    「植物学者の部屋」がコンセプトの書斎。凝った空間演出が見事。

    子どもたちと自然の中でゆったりした時間を過ごす

     ミクマリの大きな魅力の一つがカフェやショップの空間です。秘密基地のように遊び心いっぱいなのに、不思議と洗練されている。“植物学者の部屋”や“天体観測が好きな少年の部屋”など、各スペースにテーマを作り、再現しているのもユニーク。場所を眺めるだけでワクワクするし、各スペースでゆっくりお茶を飲んだりして寛ぎたくなります。

     骨組みや屋根は業者が造ったそうですが、それ以外の内外装は自分たちで製作したのだそう。だから、ところどころに置かれた古道具とマッチし、手づくりの温もりを感じることができるのです。しかも、材料はほとんどいただきもの。周辺は蔵が多い土地柄なので、解体する時に梁を譲ってもらったり、テーブルは蔵の床板を使用するなど、歴史を感じる味わい深さも空間を演出しています。

     しかし、ミクマリのゆったりとした雰囲気は空間だけではありません。もっと根源的に心に響いてくるのです。「どう生きるのか?」「何を大事にするのか?」そう聞いたとき、高橋夫妻は躊躇なく「家族」と答えます。
    「自然豊かな場所で暮らし、子育てをしながら、自分がどう生きたいかを考えてきました。今はお店で働きながらも、子どもたちと自然のなかでゆったりした時間を過ごすことをいちばん大切にしています」と、明美さん。

     自然と共生し、自然のなかで生かされ、本来食べるものを食べ、家族で心安らぐ暮らしを送ること。毎日を楽しく暮らすこと。やがてそんな素敵な環境で育った子どもたちが大きくなり、次の時代に生きる時「本当に大切なもの」を継承していること。ココに来ると感じる温もり、寛ぎ。それはそんな家族の愛情に包まれた場所だからなのかもしれません。

    ミクマリ
    イベント出張時や家族旅行で活躍する、おしゃれなワーゲンバス。
    ミクマリ
    「ミクマリ」のエントランス前での高橋さん一家。元気な男の子たちはみんな仲がいい。
    ミクマリ
    作陶家・中嶋寿子さん作の陶製ブローチ。明美さんは特に鳥モチーフが好きなのだとか。
    ミクマリ


    ミクマリ&ホムスビ

    栃木県芳賀郡芳賀町東水沼1032-12
    TEL028-677-3250
    営 ミクマリ/ 11:30〜16:00(LO15:30)
    ホムスビ/ 13:00~16:00
    休 日曜、不定休
    http://mikumari-homusubi.com/

    営業時間など下記の最新情報をご確認ください。
    https://www.instagram.com/mikumari.homusubi/